名古屋高等裁判所 昭和29年(う)877号 判決
第一点の要旨は、原判決が被告人から金四万五千円を追徴したのは、違法であると謂うにあるが、公職選挙法第二百二十四条によれば、被告人が選挙運動報酬又は投票買収資金として供与を受けたり交付を受けた現金は没収しなければならぬもので、若し右の現金が、そのまま存在しないため没収できないときは、同金額を追徴しなければならぬ旨を規定している。本件において、これを見れば、原判決第一の通り、被告人は、犬飼久義から、選挙運動の報酬又は投票買収資金として十万円、五万円、二万円の供与を受け、三万円の交付を受けているのであつて、右の三万円は、証第一号として、押収してあるので、没収していることが明らかである。而して被告人が供与を受けた合計十七万円については、本件において押収することはできなかつたものであり、原判決第二記載の通り、更に被告人は、合計七万六千円を供与して居り、被告人の原審公判廷及び論旨によれば、供与を受けた十七万円は、全部、選挙運動報酬等として、供与してしまつたことになつて居る。然し原審が取り調べた証拠によれば、被告人は、前記の通り、供与を受けた十七万円の一部を選挙運動以外の自己の私用に費消したことが認められる。右のように、被告人が供与を受けた十七万円を如何に使用しようとも、被告人の自由裁量に属することであり、右十七万円が現存して押収されていない限り、公職選挙法第二百二十四条により没収することができないものとして追徴することができるものである。即ち被告人が供与を受けた十七万円の一部を原判示の通り、白井昇、久野政春、中島藤男、笠原宗一等に供与しているが、若し供与した現金が押収されて居り、右の被供与者が共同被告人となつていれば、総ての共同被告人から没収する旨の判決を為すべきものであり、右現金が存在しないときは、没収することができないものとして、総ての共同被告人から追徴する旨の判決を為さねばならないものである。このことは、被告人と他の被供与者が共同被告人でなく、別個に審理されても又は不起訴の者があつても被告人から全額追徴し得ることに変りはない。ただ追徴の判決を執行する場合、総ての共同被告人から全額を徴集するときは、二重にも三重にも同一金額を徴集することになり、被告人にとつては没収と比較し、著しく不利益となるので、共同被告人又は他に追徴の判決を受けた被告人とが連帯して追徴金を支払うことになるのである。従つて被告人が供与を受けた十七万円を総て他に供与したとするも、被告人からこれを追徴すべきものであることは、疑をいれない。従つて原判決が十七万円を追徴し得るのに、その一部である四万五千円を追徴したのは、被告人のみの本件控訴においては、これを違法として、原判決を破棄すべきものではない。論旨は、理由がない。
(裁判長判事 高城運七 判事 滝川重郎 判事 赤間鎭雄)